函館を本拠地に全国に向けて作品を送りだしている版画家。 大工さんを生業にしながらこの世界に入った人だが、どちらも木材を素材にした表現活動なわけで、とりたてて変身とか変換というものではない。本人にも人生を変えたなどという意識などないはずで、版画の仕事が増えてしまって大工の時間がなくなった程度の認識だと思う。だからといって器用な大工さんがノミを振るう相手を丸太から版木に変えただけと思うと彼の本質を見誤る事になる。
佐藤さんは少年の頃から絵が大好きで”絵書きになる事”を決意していたらしい。建築作業に携わっていたが、昼間に大工ノミ、夜間に彫刻ノミを握り続けた。宮沢賢治と棟方志功が彼の心の師であるのは今も変わらなく、この偉大な天才達を栄養にして育った佐藤さんの、大工で鍛えた力強いノミ裁きには迷いやためらいというものは微塵も見られない。自由で力強い佐藤国男さんの世界は版画はもとより、自作の額にまでノンノン瑞随と繰り広げられてゆくのである。進歩の袋小路に追い込まれてしまった現代人にとって何かしら縄文の豊かさを与え続けてくれる作品達である。